コラム

「誰もが自分らしく人生を味わえる社会をつくる」My Land代表が事業を始めた理由

私がMy Landをつくった原点には、ずっと心に残っている「食べさせてあげられなかった」という後悔があります。

管理栄養士2年目の春。病気で長く入院していた祖父が、ある日「箕面の紅葉の天ぷらが食べたい」と言いました。食への意欲も落ちていた祖父が、自分から「食べたい」と口にしたことが、私は本当に嬉しかったのを覚えています。

早速、紅葉の天ぷらを買ってきて「おじいちゃん、紅葉の天ぷら買ってきたよ!」と見せると目を大きく見開いて、手をゆっくりパチパチしながら喜んだ祖父。しかしながらそこに入ってきた看護師に言われた一言に衝撃を受けました。

「すみません。今朝から絶食になったんです。」

当時、病院で勤めていた私はそれが何を意味するのか分かりました。それは、お迎えが来る準備に入っていて、「この世で食事を口にすることはない。」ということです。しかしながら、親族含め、医療職にいたのは私だけ。主治医の診療方針を聞いたわけでもないので、誰にも言えずに「点滴をしているから、また食べることが出来る日が来る」と思っている母や兄弟には言えませんでした。

結局、私の想像通り最期に食べたいといった箕面の天ぷらを食べさせることはできず、約3週間後、祖父は亡くなりました。

管理栄養士であるにもかかわらず最期に食べたいと数年ぶりに口にしたものを食べさせられなかった後悔。お葬式には特大の紅葉の天ぷらの箱を置いて、全てが終わってから親族全員で紅葉の天ぷらを祖父の代わりに食べた味は今でも忘れられません。

この経験は、私にとって単なる後悔ではありません。なぜ私は食と健康の仕事をするのか。なぜMy Landという会社をつくり、今もこの事業を続けているのか。

その根っこには、「できるだけ最期の日まで、自分の好きなものを、おいしいと思って食べられる人生であってほしい」という想いがあります。

「食の楽しさ」を伝えたいと思って、管理栄養士を目指した

そもそも私が管理栄養士を目指したきっかけは、もっと前にあります。

私は幼少期から、本当に食べることが好きでした。

でも中学生の頃から、ダイエットや食に関する情報に振り回された経験があります。当時は、「これを食べれば痩せる」「これだけ食べればいい」という単品ダイエットのような情報やカロリー計算をしてなるべく低いカロリーのものを食べるダイエット情報がたくさんありました。

気が付けば、食べたいものよりもダイエットに効くといわれているものや、カロリーの低いものを選んでいる自分。次第に食べることが楽しくなくなっていきました。

本当は食べることが好きなのに、食べ物を見るたびに「これは太るのか」「食べていいのか」と考えてしまう。今振り返ると、食そのものが嫌いになったわけではなく、情報によって「食べることを楽しめなくなっていた」のだと思います。

食は毎日のことです。だからこそ、一つの情報によってこれほど気持ちや行動が左右されるのだと、自分自身の経験から知りました。

「だったら、正しい食の情報はもちろん、食の楽しさを伝えられる人になりたい」。

そう思ったことが、管理栄養士を目指した最初のきっかけでした。食べることを我慢させる人ではなく、食べることをもっと楽しめるようにする人になりたい。そんな気持ちを持っていました。

病院で働いて、思い描いていた仕事との違いにぶつかった

管理栄養士になり、私は大阪でも大きな透析病院で働きました。もちろん、医療現場で栄養管理を行うことには大きな意味があります。病気の治療のために食事を調整することも、必要な医療です。

一方で、私は仕事をする中で何度も葛藤しました。病気になれば、食事にはさまざまな制限が必要になります。

食べてはいけないものを伝える。量を制限する。状態によっては口から食べること自体が難しくなり、経管栄養になることもあります。食事も、その人の状態に合わせて刻み食などへ変わっていきます。

必要なことだと頭では分かっていました。でも、「食べる楽しさを伝えたい」と思って管理栄養士になった私は、少しずつ違和感を抱くようになりました。

もっと元気なうちに、できることがあったのではないか。

病気になってから、食べられるものを減らしていくのではなく、その前から健康について知り、自分に合った選択ができていたら。そうすれば、もっと長く「食べることを楽しめる時間」を守れるのではないか。仕事をしながら、祖父のことを思い出すこともありました。

私が守りたいのは「健康」そのものではない

健康に関わる仕事をしていると、「健康にすること」がゴールのように語られることがあります。でも、私は健康そのものが人生の目的だとは思っていません。

健康でいたいのは、その先にやりたいことがあるからです。旅行に行きたい。仕事を続けたい。家族と出かけたい。好きなものを食べたい。新しいことに挑戦したい。健康であることで、人生の選択肢は増えます。

だから私にとって健康とは、自分らしく人生を味わうための土台です。健康になるために人生を我慢するのではなく、人生を楽しみ続けるために健康がある。私は、その順番を大切にしたいと思っています。

1日3回の食事が幸せなら、人生にはたくさんの幸せが増える

私は、食べることにかなり幸せを感じるタイプです。おいしいものを食べると素直に嬉しいですし、誰かと食事をしながら話す時間も好きです。

食事は、多くの人にとって1日3回あります。旅行や大きなイベントのような特別な幸せは、毎日あるものではありません。でも、食事はほぼ毎日繰り返されます。

その一回一回が、「美味しいな」「嬉しいな」「一緒に食べると楽しいな」と思える時間だったら。人生には、ものすごい数の小さな幸せが積み重なっていくと思うのです。

私は食を、単に「身体に必要な栄養素を摂る行為」としてだけ捉えたくありません。食べることは、人生を味わうことの一部。だからこそ、できるだけ最後まで、その喜びを失わずにいられる社会をつくりたいと思っています。

だから、「病気になってから」では遅いと思うようになった

病院で働いた経験から、私の中で一つの問いが強くなっていきました。「なぜ、食と健康の専門家に出会うのは、病気になってからなのだろう。」

管理栄養士には、病気になった人を支える専門性があります。でも、その知識は、本来もっと早い段階でも役に立つはずです。

まだ元気に働いている時。子育てをしている時。スーパーで買い物をしている時。外食をしている時。将来の健康について、まだ深刻には考えていない時。そうした日常の中で、必要な知識や選択肢に自然に出会えたら、未来は少し変わるかもしれません。

「健康のために何かしなければ」と身構えるのではなく、普段利用している商品やサービス、職場、地域、店舗、EC、メディアなどの中に、専門家の知恵が自然に存在している。

そんな社会なら、専門家を探しに行かなくても健康につながる選択肢と出会えます。

これが、今のMy Landが目指している「健康な時から食と健康の専門性に出会える社会」につながっています。

食だけでは、人の人生を支え切れないことにも気づいた

一方で、事業を続ける中でもう一つ感じるようになったことがあります。食だけですべてを解決することはできません。

例えば、最期の日までおいしく食べるためには、食事内容だけではなく、歯や口腔機能も関係します。自分で食事をし、好きな場所へ出かけるためには、身体を動かす機能も必要です。

私は管理栄養士なので、どうしても最初は「食」から物事を考えます。でも、生活者からすれば、食、運動、歯、睡眠、美容、仕事などが別々に存在しているわけではありません。全部ひとつの暮らしの中にあります。

だから今は、管理栄養士だけに閉じるのではなく、歯科・口腔領域や運動、美容、睡眠など、食と健康に関わるさまざまな専門家と一緒に社会をつくっていきたいと考えています。

食に興味がない人に、食の話だけをしても届かないかもしれません。でも、運動が好き、美容が好き、仕事を頑張りたい、子どもとの時間を大切にしたい。その人が関心を持っている入り口から健康につながることはできます。

健康に興味がある人だけが健康になれる仕組みではなく、普通に暮らしているだけで、より良い選択肢と出会える仕組み(=健康インフラ)をつくりたいと思っています。

何度遠回りしても、結局「食べることが好き」に戻ってきた

ここまで振り返ると、私自身の人生も決して一直線ではありませんでした。実はこれまでに、二度「管理栄養士を辞めよう」と思ったことがあります。

一度目は、転職した先の病院で働いていた時です。

その職場では、毎月のように栄養士が辞めていくほど人間関係が厳しく、私自身もパワーハラスメントを受け、入職から3か月で休職することになりました。

当時の私は、管理栄養士として「こうしたい」という想いが強かったからこそ、ぶつかってしまったのだと思っていました。「こんな思いをするくらいなら、もう管理栄養士を辞めた方がいいのかもしれない」。そう考えたのが、一度目です。

二度目は、父から言われたある言葉がきっかけでした。私は幼稚園から私学に通っていました。長女だったこともあり、幼い頃から「期待に応えなければ」「弟や妹に迷惑をかけてはいけない」と、無意識のうちに“いい子”でいようとしていたのだと思います。

中学受験では、大学まで進学できる武庫川女子大学附属中学校・高等学校へ進み、そこで管理栄養士という資格に出会いました。

そんな中、ある時父から「お前らには金をかけすぎた」と言われました。その言葉を聞いた瞬間、それまで自分がどれだけ親の期待や顔色を気にしながら生きてきたのかに、初めて気づきました。

そして同時に、分からなくなりました。「管理栄養士になりたいと思ったのも、本当に自分の意思だったのだろうか」「このままでいいのかな」「私は本当は何をしたいんだろう」

でも、不思議なことに、何度迷っても最後に戻ってきたのは、いつも同じところでした。

「やっぱり私は、食べることが好きなんだ」

大きな志から始まったわけではありません。おいしいものが好きで、食べる時間が好きで、その楽しさをなくしたくない。祖父にも、最期までその楽しみを持っていてほしかった。

何度も遠回りをしたからこそ、今は「健康のためにはこうしなければならない」という一つの正解を押し付けたいとは思いません。

人によって幸せの形も、健康との付き合い方も、食べたいものも違います。

だから、一人ひとりが自分にとってのより良い選択をできるようにしたい。その人の人生を、誰かが決めるのではなく、自分自身で選び、味わえるようにしたい。それが、My Landのパーパスでもある「誰もが自分らしく人生を味わえる社会をつくる」にもつながっています。

管理栄養士という職業の可能性も、もっと広げたい

My Landの設立から、私は管理栄養士の可能性についても、以前より強く考えるようになりました。病院、施設、給食、栄養指導。これらはもちろん、社会に必要な仕事です。

でも、食と健康の専門性が必要な場所は、それだけではありません。

企業様の商品をどうすれば健康価値として生活者へ届けられるのか。新しいサービスをどう設計すれば無理なく健康行動につながるのか。どんな商品なら、楽しさと健康を両立できるのか。そうした問いを企業様と一緒に考えることも、専門家の役割になっていいと思っています。

管理栄養士が最後に「監修」するだけではなく、企画の段階から入る。生活者の声を事業に持ち込む。商品やサービスを一緒につくる。

私は、管理栄養士という職業を「栄養について教える人」だけではなく、企業様と一緒に社会課題を解決し、その先にいる生活者へ健康価値を届ける専門家へと広げていきたいと思っています。

これは「管理栄養士の仕事を増やしたい」という話だけではありません。専門性が活かされる場所が増えれば、それだけ生活者が健康な時から専門家の知恵に触れられる場所も増えるからです。これはMy Landミッション「企業・専門家・生活者をつなぎ、日常の中に健康インフラを実装する」に繋がっています。

「その領域ならMy Land」と思い出してもらえる会社をつくりたい

そして、経営者として明確に目指していることがあります。

5年後、食・健康・ウェルネス・ヘルスケア領域で新しい事業を始めようとした時に、「その領域なら、まずMy Landに相談してみよう」と思い出していただける会社をつくりたい。

管理栄養士を探している時だけではありません。

「この素材に健康価値はないだろうか」「新しいサービスをつくりたい」

「生活者の健康課題を事業として解決できないだろうか」「専門家と一緒に何かできないだろうか」

そんな、まだ答えが決まっていない段階で思い出してもらえる存在になりたいと思っています。

そのためにMy Landが持つべきなのは、特定の制作物をつくる力だけではありません。

社会の中にある課題を見つけ、問いを立て、企業様・専門家・生活者、そして必要に応じて地域、大学、行政などをつなぎ、小さく試し、検証し、社会の中で続く仕組みにする。

これがMy Landのビジョンでもある「食と健康の専門性が暮らしの中に自然にある社会へ」に繋がっています。

会社を大きくしたい。その理由も、昔とは少し変わった

会社を経営している以上、事業を成長させたいという気持ちは当然あります。でも、売上や会社規模そのものを最終目的にしたいわけではありません。

My Landが多くの企業様や専門家と関われるようになれば、その分だけ、日常の中に健康との接点を増やせます。

一つの商品に専門家の知恵が入れば、その商品を手に取る多くの人へ届くかもしれない。

一つの企業様の職場に新しい健康の仕組みが生まれれば、そこで働く多くの人の選択肢が変わるかもしれない。

一つの地域で成功した仕組みを他の地域にも広げられれば、さらに多くの人へ届けられます。

だから私は、My Landを成長させたい。会社が成長することと、社会に健康の選択肢が増えていくことを、同じ方向にしたい。

それが、今の私が考える事業成長です。

My Landが目指していること

私たちが目指しているのは、食と健康の専門性が暮らしの中に自然にある社会です。病気になったり、課題を見つけてから初めて専門家に出会うのではない。

健康な時から、商品やサービス、職場、地域、店舗などを通じて、自然に専門家の知恵と出会える。その積み重ねによって、自分の身体や暮らしについて考え、自分にとってより良い選択ができる人が増えていく。

そして、その先に私がずっと大切にしてきた未来があります。

人生の最期の日まで、自分の好きなものを「おいしい」と食べられること。

祖父に紅葉の天ぷらを食べさせてあげられなかった経験を、私は変えることができません。でも、その後悔があったからこそ、これから出会う人たちの未来を少しでも変えることはできるかもしれません。

健康であることだけを目的にするのではなく、その人が自分らしく生き、食べ、働き、遊び、挑戦し、人生を味わえること。そのための選択肢を社会の中に増やしていく。それが、私がMy Landを通じて実現したいことです。

企業様と一緒に、まだ世の中にない健康の選択肢をつくりたい

生活者の日常に健康を届けるためには、専門家だけではできません。商品、サービス、店舗、職場、技術、ブランド、地域との接点など、企業様がすでに持っている力があります。

そこに食と健康の専門性や生活者の声を掛け合わせることで、これまでになかった健康の届け方をつくることができます。

My Landでは、「何を専門家に依頼するか」が決まっていない段階から、企業様が持つ資産や課題を整理し、その先にどんな生活者価値を生み出せるのかを一緒に考えています。

私自身、まだすべての答えを持っているわけではありません。むしろ、企業様や専門家と話す中で、「こんな課題があったのか」「こんな届け方ができるかもしれない」と気づくことの方が多いです。

だからこそ、決まったものを提供するだけではなく、一緒に考え、一緒につくれる会社でありたいと思っています。食・健康領域で「こんな未来をつくれないだろうか」という問いがあれば、ぜひ聞かせてください。

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