地域資源はなぜ「いい素材」だけでは売れる商品にならないのか?

地域には、まだ十分に活用されていない農産物や未利用資源、規格外品、副産物などが数多くあります。「この素材には地域ならではの魅力がある」「社会課題の解決にもつながる」。そうした理由から商品開発が始まるケースも少なくありません。
しかし、素材そのものに価値があることと、生活者が実際に手に取り、食べてみたいと思う商品になることは別の話です。地域資源の商品化では、素材の魅力をそのまま伝えるだけではなく、生活者にとっての価値へ翻訳する設計が求められます。
本記事では、喜界島で除草対象となっていたセンダングサを黒糖ラスクへと商品化した取り組みをもとに、地域資源を「いい素材」で終わらせず、生活者に選ばれる商品へつなげるために考えたいポイントを整理します。
地域資源の商品化で企業がつまずきやすいポイント
素材を使うこと自体が目的になってしまう
未利用資源や地域特有の素材を見つけると、「これを何かの商品にできないか」という発想から商品開発が始まることがあります。
もちろん、地域資源を活用することには意義があります。しかし、生活者が購入するのは「素材」そのものではなく、その素材からつくられた「商品」です。素材を使用することが目的になると、誰に、どのような場面で、どんな価値として届けるのかという視点が後回しになりやすくなります。
地域性を優先するほど、食べやすさとのバランスが難しくなる
地域資源の商品では、「地域らしさをできるだけ残したい」という思いが強くなります。一方で、素材特有の香りや苦味、色、食感などが、そのまま生活者にとって魅力になるとは限りません。
地域性を強く出しすぎれば食べにくくなる可能性があり、反対に食べやすさだけを追求すると「なぜこの地域の、この素材を使うのか」が分からなくなります。商品として成立させるには、その間のバランスを探す必要があります。
作り手の「伝えたいこと」と生活者の「買いたい理由」がずれる
地域資源の商品には、生産者や地域関係者、開発者の思いが込められています。その背景は大切な商品価値の一つです。
ただし、生活者は必ずしも最初から地域課題に関心を持って商品を見るわけではありません。「おいしそう」「食べてみたい」「誰かに贈りたい」といった入口から商品に興味を持ち、その後に背景を知ることもあります。
社会的な意義を伝えることと、商品そのものの魅力を伝えること。その両方を設計する必要があります。
試作品はできても、何を基準に改善すればよいか分からない
食品開発の経験が少ない場合、試作品を食べ比べても「こちらの方がおいしい気がする」といった感覚的な判断になりやすいことがあります。
商品形態、香り、食感、配合、食べる量、利用場面、対象者など、商品を見る視点を整理することで、改善の判断基準を持ちやすくなります。
なぜ「いい素材」だけでは十分ではないのか

地域資源の商品化で考えたいのは、素材の価値と商品としての価値は同じではないということです。
珍しい素材であること、地域の課題解決につながること、これまで捨てられていたものを有効活用できること。これらは重要な価値です。
一方で、生活者が実際に商品を選ぶ場面では、味や香り、食感、価格、見た目、利用場面、分かりやすさなど、さまざまな要素が判断に影響します。
つまり、地域資源の商品開発では、
- 素材にはどのような特徴があるのか
- 誰に届けたいのか
- どのような商品形態なら特徴を生かせるのか
- 生活者にとってどのような価値になるのか
- 地域の背景をどのように伝えるのか
- 商品として継続的に選ばれる可能性があるか
まで考える必要があります。
「地域にいいものだから売れる」のではなく、地域が持っている価値を、生活者が理解し、体験し、選べる商品へ翻訳することが重要です。
実際の取り組みから見えたこと
喜界島のサトウキビ畑では、センダングサが繁茂し、除草対象となっていました。本プロジェクトでは、このセンダングサを単に処分するのではなく、喜界島の課題や魅力を伝える食品として活用できないかという検討が進められました。
アトリア合同会社と近畿大学農学部食品栄養学科・森島真幸ゼミを中心に、学生の皆さんが約6カ月にわたって試作を実施。クッキー、パイ、パンなど複数の商品形態が検討されました。
My Landは、管理栄養士の専門性を商品開発の過程へ取り入れる役割として参画しました。
重要だったのは、「センダングサを使うこと」だけを目的にしなかったことです。
センダングサには素材特有の香りや色があります。使用量によっては、その特徴が食品としての食べやすさに影響します。
そこで、素材の存在感を残しながら、生活者が食べやすい商品にするにはどうすればよいかという観点から、商品形態、配合、食感、ほかの素材との組み合わせなどを検討しました。
試作を重ねた結果、センダングサを練り込んだ食パンをラスクにし、喜界島産黒糖を組み合わせる形へと整理されました。
また、地域課題だけを前面に出すのではなく、「お菓子として食べてみたい」と感じてもらえることも重要です。センダングサを活用する背景と、ラスクとしての味わいや食感の両方が伝わるよう、商品の伝え方についても検討しました。
クライアントからは、専門家が加わったことで、配合や食べやすさなど幅広い視点から商品を考えられるようになり、感覚だけではなく理由を持って判断できるようになったという声がありました。
この経験から見えてくるのは、専門家の役割は完成した商品を確認することだけではないということです。商品開発の途中から専門性を取り入れることで、「何を基準に考えるのか」という開発そのものの判断軸を増やすことができます。
この取り組みから考えたいポイント
1.「何を使うか」より先に「誰にどんな価値を届けるか」を考える
地域資源の商品開発では、素材から発想すること自体が問題なのではありません。ただし、素材を見つけた後には、一度生活者側から考え直す必要があります。
誰が、どんな場面で、この商品を手に取るのか。その人にとって、この素材を使うことはどのような価値になるのか。ここを整理することで、適した商品形態や伝え方も変わってきます。
2.素材の弱点を消すのではなく、特徴として生かせる形を探す
特徴の強い素材では、香りや色、苦味などをすべて消してしまうと、その素材を使う意味まで失われることがあります。
一方で、素材の特徴を強く残しすぎれば、生活者に受け入れられにくくなる可能性があります。
必要なのは「特徴をなくすこと」ではなく、「どの程度なら商品の個性として成立するのか」を考えることです。そのためには、素材単体ではなく、商品形態や他素材との組み合わせまで含めて検討する必要があります。
3.社会的意義と商品としての魅力を分けて考える
未利用資源の活用や地域課題の解決は、商品の重要な背景です。しかし、その意義だけで生活者が商品を選ぶとは限りません。
「社会にとってどんな意味があるのか」と「生活者にとってどんな魅力があるのか」を分けて整理し、最後に一つの商品としてつなげることが重要です。
社会的意義、おいしさ、食べやすさ、楽しさ、贈りやすさなど、複数の価値が重なることで、地域資源は生活者との接点を持ちやすくなります。
4.専門家は完成後ではなく、判断が必要な段階から参画する
商品がほぼ完成した後に専門家へ確認を依頼しても、商品形態や配合を大きく変更できない場合があります。
企画や試作の段階から専門家と共創することで、対象者、食べる場面、商品形態、素材の組み合わせ、伝え方など、開発の上流から専門性を反映できます。
専門家の価値は「正解を出すこと」だけではありません。複数の選択肢を示し、何を基準に判断すればよいのかを一緒に考えることも重要な役割です。
5.商品完成後の「届け方」まで商品開発として考える
商品は、完成しただけでは生活者に届きません。
どのような売り場で販売するのか、どのような言葉で伝えるのか、誰から発信するのか、地域の背景をどこまで伝えるのか。開発後の接点まで考えることで、初めて地域資源と生活者がつながります。
今回の取り組みでも、商品開発後にプレスリリースやクラウドファンディングを通じて背景を発信する展開が行われました。
地域資源の商品化では、商品を「つくる」ことと「届ける」ことを別々にせず、一つの事業として考える視点が必要です。
自社で検討する際に整理したいこと
地域農産物、未利用資源、規格外品、副産物などの商品化を検討する場合は、試作を始める前に次の項目を整理してみてください。

- この素材を活用することで、どのような課題を解決したいのか
- 誰に商品を届けたいのか
- 生活者にとってどのような価値があるのか
- 素材の強みと、商品化する際の難しさは何か
- どのような商品形態なら素材の特徴を生かせるのか
- 開発のどの段階で、どの専門性が必要なのか
- 商品完成後、どのように生活者へ届けるのか
この問いに答えられないからといって、商品化できないわけではありません。むしろ、答えが決まっていない段階だからこそ、関係者や専門家と一緒に仮説をつくり、小さく試しながら整理していく方法があります。
My Landが考える専門家との共創

My Landでは、専門家に参画してもらうこと自体を目的にはしていません。
最初に考えるのは、「誰のどんな課題を解決し、どのような未来をつくりたいのか」です。そのうえで、その未来を実現するために必要な専門性を考えます。
地域資源の商品開発であれば、管理栄養士だけですべてを解決できるわけではありません。素材を知る生産者、地域事業者、加工事業者、大学、販売者、生活者など、それぞれが持つ知識や経験を組み合わせる必要があります。
専門家も、完成後に名前を添えるだけの存在ではなく、課題設定や企画、試作、改善、検証に参加する共創者になり得ます。
My Landが担いたいのは、人を紹介して終わることではありません。企業・専門家・生活者、そして必要に応じて地域や大学などをつなぎ、それぞれの価値が重なる事業や商品を設計することです。
地域に眠っていた素材が、生活者の日常の中で選ばれる商品になる。その過程に専門性を組み込むことも、食と健康の専門性を社会へ実装する一つの形だと考えています。
まとめ
地域資源の商品化で重要なのは、「いい素材を見つけること」だけではありません。
第一に、素材を使うこと自体を目的にせず、誰にどんな価値を届けたいのかを考えること。第二に、地域や社会にとっての意義と、味や食べやすさなど生活者にとっての魅力を両立させること。そして第三に、商品開発の早い段階から必要な専門性を取り入れ、感覚だけではなく判断基準を持ちながら試作と改善を進めることが大切です。
地域にとって価値のある素材を、生活者にとって価値のある商品へ変える。その翻訳ができて初めて、地域資源は商品として社会との新しい接点を持ち始めます。
自社や地域に眠っている素材について、「何がつくれるか」だけではなく、「誰にどのような価値として届けられるか」という視点から考えてみることが、商品開発の次の一歩になります。
地域資源を生活者に選ばれる商品へ変えるところから、ご相談ください
My Landでは、地域農産物、未利用資源、規格外品、副産物などを活用した商品・事業づくりについて、企画段階からご相談いただけます。
「素材はあるが、何をつくればよいか決まっていない」「試作品はあるが、商品として成立しているか判断できない」といった段階でも問題ありません。素材や地域が持つ価値、届けたい生活者、必要な専門性を整理しながら、商品コンセプト、試作、専門家との共創、生活者検証、発信や展開まで、必要な支援を組み合わせて設計します。
管理栄養士の選定だけではなく、商品・サービス・PoCなどを含めた事業設計からご相談いただけます。







